太陽が出ると、田園風景のなかに青空がひろがっていた。朝食を早めに済ませて、マナーハウスの庭を散策する。中庭にはベンチやテーブルが置いてあり、あちこちに花が植えてあった。芝生はきれいに手入れされ、早朝からホテルの従業員のみなさんが働いていた。
精巧な作りのモデル・ビレッジにびっくり
ホテルの敷地の外に出ると、農家らしい大きな家がならんでおり、広い庭には花壇やベンチ、テーブルなどがきちんとおかれていて、優雅な生活が感じられた。
ホテルに引き返してくると、エントランス以外にも出入りできるドアがあって、迷路のような廊下を歩かずとも、庭を通って私たちの部屋のすぐそばまで来ることができた。猫が歩いていて、声をかけたが、振り向いただけでどこかへ行ってしまった。
9時30分にホテルをバスで出発する。今日は現地のガイドは付かず、添乗員の安さんがコッツウォルズの概要をバスのなかで説明した。
「コッツ」は羊、「ウォルズ」は丘という意味だそうで、つまりコッツウォルズは「羊の丘」ということだ。その名の通り、良質の羊毛が産出されるコッツウォルズ地方では、羊毛を商売して得た財産で建てた教会も数多くあり、そうした教会は「ウールチャーチ」と呼ばれるそうだ。
湖水地方のスレートとは違って、こちらの家はウーライトと呼ばれる石灰石の岩石でつくられており、はちみつ色の暖かい感じがする家並みがつづいた。田園風景がどこまでもひろがり、牧場には羊や馬が放牧されていた。
ホテルを出て30分ほどでバスはボートン・オン・ザ・ウォーターの街に着いた。ここからはロンドンまで列車で2時間ほどで行くことができる。街の中央を流れるウィンドラッシュ川にかかる小さな石橋がこの街のシンボルで、橋の上でかわるがわる記念写真を撮った。川沿いの通りにはみやげ物屋がずらりと並んでいた。すでに観光客もたくさん着ていて、日本人も多く見られた。
約1時間の自由時間を使って、忙しく街のなかを歩く。はじめに、数十台のクラシックカーが展示されている博物館・モータリングミュージアムでみやげを買ったが、時間がないので館内には入らなかった。
今度は、橋を通り過ぎて街のはずれにあるモデル・ヴィレッジにむかった。ボートン・オン・ザ・ウォーターの街にあるすべての建物を、実物の9分の1のミニチュアで再現している。鬼怒川にある東武ワールドスクウェアを小規模にしたようなものだが、一つ一つの建物が細部にわたってきちんと再現されていた。
教会のミニチュアは、ガラス窓から見える内部に祭壇やパイプオルガンが置かれており、どこからか賛美歌が聞こえていた。家畜小屋には小さな牛が飼われ、ミニカーのトラックがとまっていた。たったいま、前を通ってきたホテルや郵便局などが精密に再現されていた。おもしろかったのは、モデル・ビレッジ自体を縮小したミニチュアがあったことだ。
見ていて飽きることがなかったが、刻々と集合時間がせまっており、モデル・ビレッジを出て、大急ぎでバスの駐車場まで引き返してきた。
久しぶりの陽の光が暖かく、もっとのんびりと歩きたかった。たった1時間であちこちを見て回らなければならず、ゆっくりとは観光できなかったのは残念だった。2人で約7ポンド払って中に入ったモデルビレッジも、わずか15分しかいられなかった。せっかく早く出てきているのだから、せめてあと30分は自由時間が欲しかった。
「イングランドで最も美しい村」バイブリーを歩く
さらにバスで30分ほど移動して、バイブリーという集落に着いた。村の中心にあるスワンホテルの前から、約30分で歩いてぶらぶらと村の中を散策する。小さな村にはみやげ物屋は1件しかないそうだが、コッツウォルズでも人気の場所であり、ここでも日本人観光客の姿が見られた。
バイブリーでの観光名所は、アーリントン・ロウと言われる家並みで、コルン川に沿って14世紀に建てられた石造りのコテージが連なっていた。それぞれの家には小さなドアが付いていて、今でも村人が住んでいる。14世紀のころは羊小屋だったらしいが、17世紀ころから毛織り職人が住みはじめたそうだ。
コルン川の水はとても澄んでいて、川藻の緑が美しい。マスが泳ぎ、カモが水中に首を突っ込んでいた。バイブリーは、19世紀の詩人ウィリアム・モリスが、「イングランドで最も美しい村」と称えたそうだが、その美しさは今もまったく変わっていない。好天に恵まれたことが本当に良かったと思った。
昼食は、バイブリーから少し離れたマナーハウスで、イギリス伝統のアフタヌーンティーを楽しむ。スコーンやサンドウィッチがすでに大皿に盛られている席に着いた。スコーンとともにレーズンの入ったケーキがあり、サンドウィッチはキュウリやハムなど3種類あった。レーズンケーキには砂糖がふりかけられていて、私には甘すぎた。
スコーンは2つに割って、これも甘いジャムやクリームを塗っていただく。店員の女性がカップの紅茶が少なくなるとすぐにたっぷりと注いでくれるので、おなかがいっぱいになる。満腹にはなったのだが、甘いお菓子だけでは昼食を食べたような気がせず、物足らなかった。
イギリスではおやつのたぐいに入るアフタヌーンティーを、昼食にするのはいかがなものかと感じたが、私たちが食べている間に別の日
本人ツアーが入ってきて、20人を超えるにぎやかなツアー客たちが楽しそうに食べており、こんなものなのかとも思った。
しかし、現地ガイドがつかなかったこと、自由時間の短さ、そして昼食の物足りなさなどなど、コッツウォルズでの観光は大いに不満が残った。
町歩きを楽しんでみたかったと悔いが残る
午後からはコッツウォルズ地方ウインチコム郊外のスードリー城を訪れる。16世紀にはヘンリー8世の最後の王妃であるキャサリン女王が住んでいたが、その後、200年にわたって放置され、19世紀の半ばに手袋で財を成したデント兄弟が城を買い取られた。城は修復が続けられ、現在のスードリー城となり、今では国内外からたくさんの観光客が訪れるようになった。
数々の手入れの行き届いた庭園をめぐり、城内にあるセント・メリー教会に入る。祭壇近くにはスギモトヒロシと記されたモノクロの写真が7枚飾ってあった。日本に帰ってから調べると、東京とニューヨークを活動の拠点にする日本人写真家・杉本博司氏の作品のようで、この期間中だけ特別に展示しているのだった。
教会にはキャサリン女王の墓があり、墓の回りは荘厳な雰囲気がただよっていた。別棟の展示場には、キャサリン女王のウエディングドレスをはじめ、ゆかりの品々が展示されていた。
1時間半ほどゆっくりと城の中を見て回ったあと、16時に城を出てバスでホテルまで帰る。途中、ブロードウエー、チッピング・カムデンなどコッツウォルズ地方の街を走りすぎる。人々が集まっているにぎやかな通りや、珍しい茅葺き屋根の家などがバスの窓から見えた。
おそらく1時間もたたないうちにホテルに着いてしまうこととなり、十分に時間はあるのだから、バスを降りて散策すればいいと思ったが、お年寄り中心のツアーであり、ホテルでの休憩時間をたっぷりとることが優先された。
旅行前にガイドブックを眺め、コッツウォルズのあちこちの村を訪ね、ぶらぶらと町歩きならぬ村歩きを楽しみたいと思っていただけに、バスに乗ってホテルまで引き返してしまうのは残念だった。「旅彩彩」のゆるい日程が、私たち夫婦にとっては物足りなかったのだ。
予定通りホテルには17時前に到着したが、街から離れたマナーハウスではどこにも行くところはなく、19時までホテルの部屋でぼんやりと過ごした。
ホテルのレストランでの夕食は、昨夜と同じように2人だけの席に座った。前菜は、ゴーダチーズをプリンのように固めたものの中に野菜が入っていた。その上にリンゴのソースがかけてあった。メインは鯛をパン粉で揚げた物で、その下には定番のポテトが円形に固めて添えられていた。何種類かの豆が付いているのは昨夜と同じだ。
昼食に食べたスコーンやレーズンケーキが、まだどっしりとお腹に残っていて、パンは手が出なかった。申し訳なかったが、メインの料理が終わった後に、手をつけていないパンをそのまま引き上げてもらった。
デザートは、ヘーゼルナッツのパンナコッタに、ブルベリージャムが添えられたもので、パンナコッタのうえに飴のようなお菓子がのっていた。それが歯にくっついて、えらく食べにくかった。飲み物は、昨日とおなじく地元のエールビールをいただいた。
部屋に引き返すと、あとは寝る以外にやることもなかった。








