朝早く自宅を出て、成田空港へとむかう。フライトは11時前だが、夫婦での海外旅行は約2年ぶりと言うこともあり、少し余裕を持って行動することにした。
東京は蒸し暑い日々が続き、9月になっても残暑がおさまる気配はなかった。夏休みが終わったばかりの成田空港は、休日でも人影は少ない。
男性のツアー参加者はたった3人だけ
空港に着いたときにはまだカウンターにJTBの看板がかかっておらず、しばらく待っていると添乗員らしき女性が顔を出し、受付が始まった。
私たちのほかにもすでにツアー参加者が来ていて、次々とフライト前の手続きを済ませていく。全員の手続きが終わると、空港の有料待合室に移動して一通りツアーの説明をうける。
今回の参加者は全員で14名で、そのうち男性は、兵庫県から参加されたご夫婦の夫、東京の家族連れの父親、そして私のたった3名だけだった。あとは、母と娘、女友達同士など圧倒的に女性優位のツアーであることがわかり、思わず引き返したくなった。添乗員の安(やす)さんも女性だ。やはりピーターラビットを見に行く旅におっさんはお呼びでないのだろうか。
顔合わせが終わると自由時間となり、出国手続きをすませれば出発までは特に何もすることもなく、ゲート近くの待合室でのんびりと過ごす。
出発時間が近づき、ゲート前の列に並んでいると、同業のYさんとMさんとばったり出会ったのでびっくりした。これから仕事でロンドンに出かけるとのこと。研究者のみなさんといっしょにイギリスの自治体や非正規労働者、公務員制度の調査をするのだそうだ。こちらは遊ばせてもらうのに申し訳ない気持ちになった。
ロンドン・ヒースロー空港までは英国航空のボーイング777で行く。今回は少しだけ贅沢をさせ てもらい、上級エコノミーの席をとっていた。エコノミーならば窓際の3人掛けの席が2人掛けとなっていて、前後の間隔もいくぶん広かった。
いつもは狭いエコノミーで辛抱するのだが、私が前の年に過労が原因で目を回してしまったことや、少しは楽に旅行したいという思いもあり、思い切って上級エコノミーにしたのだった。エコノミーにくらべて往復で1人13万円も高かったが、ゆったりしたシートは確かにそれだけの価値はあり、一度使うと病みつきになるかもしれない。
離陸から2時間ほどして、ようやく機内食が出てくる。イギリス人のCAさんから飲み物を聞かれ、赤ワインを2本たのむと、さっそく妻から厳しいクレームが入る。食事が済むとやることもなく、灯りの消えた機内では映画を見るかひたすら眠るしかない。ゆったりした席でうつらうつらしつつ、ときおり通路を歩いたりしているうちに機内が明るくなり、2回目の機内食が片付けられてほどなく、飛行機はヒースロー空港に到着した。
寒さに震えながら湖水地方に到着
ロンドンの天気はくもっており、気温は20度で東京よりも10度以上も涼しく、秋の気配を感じさせる。到着したのは15時だったが、イギリス全土がまだサマータイムで、世界標準のグリニッジ時間よりも1時間だけ時計が遅れている。
閉口したのは、ヒースロー空港での入国審査がのろのろで、さんざん待たされたことだ。このとき、行政改革の調査団で15年ほど前にはじめてイギリスを訪れたときのことを思い出した。当時、日本では「行革先進国」と見られていたイギリスを訪れ、あちこちの行政機関を見て回ったが、何事にもスローペース、よく言えばマイペースの公務サービスを見て、わが国の公務員こそ世界一だと感じて帰ってきたのだった。
ようやく入国審査を終え、国内線に乗り換えてマンチェスターまでむかう。乗り継ぎの飛行機までまだ2時間ほどあったので、ヒースロー空港の免税店やみやげもの店を見て回った。オリンピックが終わったばかりなので、どの店もオリンピックに関係した品々が店先に置いてあった。どれも売れ残りの感はぬぐえず、値札を見ると、半額くらいで投げ売りされているマスコットなどもある。
17時40分に飛行機に乗り込む。機内が驚くほど寒く、鞄のなかにしまってあったジャンパーを着込んだ。妻はひざ掛けの毛布を英国航空の客室乗務員に頼んだが、飛行機が到着するまでついに出てくることはなかった。
わずか40分のフライトで飛行機は無事に空港に着いた。とっぷりと日が暮れたマンチェスターは、ロンドンよりもさらに寒く、うだる暑さの日本を出るときに厚手のジャンパーを手荷物に入れてきたことは正解だった。
空港では、現地のスタッフが大型バスで待っていた。ここからホテルまで2時間ほどかかるという。ほとんどの人が空港到着後にトイレを済ませていなかったこともあり、30分ほど走って高速道路のパーキングに入る。運転手はフィルという名前の男性で、湖水地方からロンドンまでの運転をお願いすることになっている。「とても寒いよ」とフィルに伝えると、昨日は暑かったのだと話した。湖水地方の天候は、日替わりどころか時間単位で変わっていくらしい。
田園地帯の高速道路をひた走り、21時前にようやく「ローウッドホテル」に到着した。湖水地方のウィンダミアとうところにある。なお、ミア(mere)というのは湖という意味だそうだ。ちなみに、湖水地方にはその名の通りいくつもの湖があるが、それらはミアもしくはウォーターと呼ばれ、レークと名のつく湖は1つだけしか存在しないらしい。
ホテルの中は迷路のようになっていて、廊下を何回も曲がり、階段を何度も上り下りしてようやく部屋にたどり着いた。かなり時代物のホテルのようで、廊下はでこぼこしており、部屋に入ると階上の宿泊客が歩く音が聞こえた。隣の部屋とはドアで行き来できるようになっており、もちろん鍵はかかってはいるが、西洋人らしい男女の話し声がドアを通してよく聞こえた。部屋の床もべこべこしており、いかにも田舎のホテルという感じだ。
荷物を整理してシャワーを浴びたらすでに11時近くになっており、時差ボケで眠れないことはわかってはいてもベッドに入った。








