6時過ぎに起きる。やはり今日も雨が降っていた。雲は昨日よりも厚く、晴れ間はまったく見えない。朝食を終え、今日は湖水地方観光が終わった後、コッツウォルズまで行くので、荷物をまとめてスーツケースを部屋の外に出した。
雨の湖水地方をゆっくりとハイキング
ロビーにはすでにガイドのジョージさんが来ていた。ジョージさんは、身体が大きく、ロマンスグレーで60歳を超えたくらいに見える。湖水地方を専門にする観光ガイドを仕事にしており、ずっと地元に住んでいるので、毎日、歩いてホテルまでやってくるそうだ。
独学で日本語を勉強しているらしく、手作りの辞書を持っていて、わからない言葉を添乗員の安さんに教わっては、こまめに書き込んでいた。
雨模様だったが、午前中2時間ほど徒歩で湖水地方を散策することになっている。だから、ジョージさんも今日はハイキングの格好をしてきた。ザックを担いで運動靴をはいている。
9時にバスが出発し、はじめにアンブルサイドのブリッジハウスまで行く。昨日歩いた船着き場からさらに奥に入ると、商店がならんだにぎやかな場所に出てきた。その一郭にブリッジハウスがある。
文字通り橋の上に立てられた小さな家で、今は空き家だが、昔はリンゴの貯蔵庫であり、その後も人が住んでいたそうだ。かつては湖水地方に多くのブリッジハウスがあったそうだが、今ではこの1軒だけが残っている。
アンブルサイドはウィンダミアとグラスミアの真ん中あたりにあり、カンブリア州立大学のキャンパスがひろがっている。トレッキングを目的にヨーロッパ各地から冬でも多くの観光客が訪れ、このあたりのホテルはいつもにぎわっているそうだ。
9時半にバスを降りて、ハイキングに出発する。添乗員の安さんが、「What are you going to do?」と描かれた案内板の地図を使って、グラスミアまでのコースを説明した。2時間ほどかけて、グラスミア湖の周りをゆっくりと歩く予定だ。
はじめは川にそってすすむ。動物が出たり入ったりできないように設置された柵の止め金をはずして、川べりの道に入った。雨が降る中を、川がゆっくりと流れていた。青空も見えるのだが、小雨が降り続いていた。
しばらく歩くとグラスミア湖に出た。対岸はうっすらと霧に煙っていて、遠くに山の輪郭が見えた。湖畔から斜面を上がると、ところどころにスレートを積み上げたような大きな屋敷が建っていた。
こうした屋敷では、昔は庭師など使用人を別の小屋に住まわせたそうで、それをコテージと呼んでいたとガイドのジョージさんが解説してくれた。ジョージさんの祖父母も、使用人をしていたようで、子どもの頃はここに住んでいたのだと、広い芝生の庭に囲まれた大きな屋敷を指さすのだった。
ジョージさんが子どもの頃はスクールバスもなく、学校までの長い道のりを毎日歩いて通っていたという。
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かつて人が住んでいた家のいくつかは、ホリデー・ハウスとして利用されているそうだ。休日だけに利用する別荘のようなものなのだろう。
売りに出されている家もあったが、ジョージさんに聞くと80万ポンドくらいだそうで、日本円で1億円ちょっとするのでとても手が出せる価格ではない。
どの家も広大な庭に芝生が植えられていて、その上をウサギが走っていた。森の中には鹿の姿も見えた。
途中、何組かの地元のハイカーたちと出会う。雨が降っているのに傘もささず、雨具を着てストックを持って歩いていた。犬を連れた家族もいた。ジョージさんに道を聞く人もいて、はじめて訪ねてくる人たちも多いようだ。みんな雨が降っていることをまったく気にせず、楽しそうに歩いていたのが印象的だった。
道路の両側には、スレートを積み重ねた石垣が作られていた。石垣はできてから100年くらいは経っているらしい。緑色の苔が生えていて歴史を感じさせた。
霧でうっすらかすむ湖の向こう岸には、ホテルだというお城のような建物が見えた。雨は降ったりやんだりして傘はたためなかったが、強く降ることはなかった。
天気が良ければもっと楽しい一日になったかもしれないが、自然には逆らえない。これも湖水地方の思い出になるだろう。
名物ジンジャーブレットをおみやげに購入
ジョージさんに案内されながら、グラスミア湖のほとりを半周し、2時間ほどでグラスミアの街に到着した。街中にはザックをかついだ人たちがたくさん歩いており、みやげ物屋などとともにアウトドア用品の店もいくつかあった。ハイキングの拠点となっているようだ。
にぎやかな通りを抜けて、セント・オズワルド教会をたずねる。ノーザンブリアの王、聖オズワルドを祭るため7世紀に建てられた教会だ。現在の建物は14世紀以降に建て替えられたものだそうだ。
墓地には80歳で亡くなったワーズワースと家族たちの眠る墓があった。墓石の前で手を合わせて教会に入る。平日とあって訪れる人も少なく、教会の中は静かだった。
教会を出ると自由行動となり、ガイドブックにはかならず出ているジンジャーブレッドの店に行く。ジンジャーブレッドとは、その名の通りショウガの味のするクッキーのようなお菓子だ。
セーラ・ネルソンがはじめた店は1854年から続いており、狭い店内では2人の女性がエプロン姿に帽子をかぶって客の相手をして、創業当時の雰囲気をただよわせていた。私たちも、おみやげ用にジンジャーブレッドを買い込んだ。また、少し離れたところにギャラリーがあったので、湖水地方の風景を描いた絵を記念に買った。
昼食はグラスミアの街中にあるワーズワースホテルのレストランでいただいた。スモークサーモンのタルタル、マスのグリルなどを食べた後、デザートにはアイスクリームが出てきた。
ガイドのジョージさんとは、ここでお別れとなる。お礼をのべたあと、バスに乗り込み、午後からは約320キロ離れたコッツウォルズまでひたすら高速道路を走った。
移動の途中、バスの外は土砂降りの雨が降っていた。17時を過ぎた頃から、バスは渋滞に巻き込まれ、のろのろ運転となる。どうやら事故があったようだが、車内のみなさんは、どっと疲れが出たようで、ほとんどの人が眠りこけていた。
JTBの主催する「旅彩彩」のツアーは、生活や仕事が一段落をついた人たちを対象にして、どちらかというと高齢者向けになっていて、今回の旅行でも最高齢の参加者は70歳を超えていた。だから、一日の日程も余裕を持って組み立てられているので、「現役世代」である私たちには、少し物足りないと感じていた。なのに今日は、朝から昼前まで2時間近くも雨の中を歩き回らなければならなかったので、みなさんぐったりとお疲れだったのだ。
貴族のお屋敷で優雅な暮らしを味わう
18時に今日から2泊する「チャーリング・ワース・マナー」に到着する。かつて貴族が住んでいたマナーハウスをホテルに改築したもので、コッツウォルズにはあちこちにこの形式のホテルがある。
バスで門をくぐり抜けると、2、3分ほどホテルの庭を走り、ようやくエントランスに到着する。さすがにイギリス貴族の豪邸だ。敷地内にはテニスコートもあった。チェックインして中に入ると、中世の歴史を感じる迷路のような廊下を通り、私たちに割り当てられた「ポター」という名前のついた部屋に到着した。
当初、バスタブがなく、ダブルベッドと聞いていたが、部屋に入るとツインのベッドが置いてあり、また、風呂にもきちんとバスタブがあった。古めかしい廊下とは違って、部屋の内部はきれいにリニューアルされていて、白で統一されていた壁がとてもきれいだった。ただ、上階の人が歩くとミシミシと音が伝わってきた。妻は夜中に起こされたそうだ。
19時半からホテル内のレストランで夕食となる。席はそれぞれの組ごとにすでに割り振られていて、私たちは二人だけで夕食を楽しむことができた。プライベートな話も遠慮なくできるので、気分的には楽だった。
マナーハウスでいただくディナーのメニューは、前菜のサーモンのテリーヌにガーリックトーストのような堅いパンがついていた。メインは鳥のささみ肉を蒸したようなものにジャガイモが丸ごと1個添えられていた。そのほか、にんじんやサヤエンドウなどの野菜も付いている。デザートのアーモンドタルトとアイスクリームは、とてもおいしかった。500mlで5ポンドもする地元のエールビールは、日本のビールとはまったく違う味がした。
部屋に帰って、22時過ぎに眠ったが、やはり夜中に何度も目が覚めて、ウトウトしながら朝の5時には起きてしまった。外はまだ暗く、空には三日月と金星と思われる大きな星が明るく輝いていた。
イギリスに来てはじめての天気良さに、コッツウォルズの町歩きへの期待もふくらんだのだった。









