5時に起きる。カーテンのすき間から覗くと、雲は多いが、天気は上々だった。気温は10度。外は涼しさを通り越して寒そう。天気予報では、午前午後ともに、降水確率は0%。今日がメインの旭岳での「日本一早い紅葉」見物の日とあって、好天の予報に胸をなで下ろす。

ホテルの前で 7時に朝食。昨夜のレストランに行くと、すでに入口に人がずらっと並んでいて、その列に急かされるようにレストランは10分前に開場。和食と洋食、バラエティ豊富なバイキング形式の食事で、ホテルのコックがフライパンでオムレツを作りはじめると、どっと人が押しよせた。

 旭岳の混雑を見越して、8時に早々とホテルを出発するので、食べ放題とはいえ、数々の料理をゆっくりとは味わっている暇がない。列ができたオムレツは断念。適当に料理を取り分け、そそくさと朝食終了。いざ出発。

 ロープウェイ乗り場の駐車場では、今日のガイドをお願いする井川さんという男性が待っていた。井川さんは、現地で自然保護の活動もしておられるそうで、柵やロープの張ってある場所にはむやみに入らないことや、花や植物を勝手に持って帰らないことなど、細かい注意を受ける。

旭岳の紅葉 50人ほどが乗れるゴンドラにまっ先に乗り込み、あいていた席に座っていると、あっという間に満員になった。あとから乗ってきた年輩の男性に席を譲ろうとしたが、断られたので厚かましく座っていた。

 男性には同じくらいの年輩の女性が同行していて、二人は夫婦のようだった。女性の方は近くの人に席を譲ってもらっていたが、よく見ると、女性は杖を持っていて、その足で上り下りがある道を散策するのは大変だろうと、この先を案じた。

 ロープウェイはわずか10分で、標高1,600メートル地点にある姿見駅に到着する。途中、山腹は紅葉が真っ盛りで、赤と黄色、緑が入り乱れたつづれ織りの景色が見事だった。

 ところがロープウェイの終点付近は、すでに紅葉は終わりかけている。今年は例年よりも秋の到来が早いそうだ。その上、1週間ほど前に北海道を襲った台風によって、せっかくの紅葉も風に飛ばされてしまったという。

噴煙が上る旭岳 それでも、青空に背景に噴煙を盛んに噴き出している旭岳を見ると、その雄大な風景に心が躍る。大雪山連峰主峰の旭岳は標高2,291メートル。北海道最高峰の山が迫ってくるようだった。

 紅葉が終わりかけとはいえ、エゾオヤマリンドウ、チングルマ、ミヤマアキノキリンソウなどの花や、ウラジロナナカマドやクロウスゴの紅葉の美しさは、石がゴロゴロ転がった道を苦労しながら歩く背中を押した。

 途中、ロープウェイで出会ったご夫婦の姿を見かけた。杖を持った女性は男性に支えられながら、ゆっくりだが足元はしっかりしている。散策のコースは約1.7キロあるので、てっきり山上駅近くで休んでいるのかと思っていたら、女性の健脚ぶりにびっくりした。ご夫婦で楽しそうに歩く姿が、ほほえましくもあった。

鎮魂の鐘 姿見展望台には、「愛の鐘」がある。1962年に起きた山岳遭難事故の犠牲者を慰霊して建立されたモニュメント。この事故では、登山中の北海道学芸大学(現北海道教育大学)函館分校の山岳部員11人が遭難、生存者はたったの1人だけだったという。

 わが子らを亡くした親、前途有望な学生らを失った大学の悲しみはいかばかりか。鎮魂と旭岳を登る人々の安全を祈って、「愛の鐘」を打ち鳴らさせてもらった。

 鐘のそばには、カラスが数羽止まっていた。こんな高いところまでカラスが来るのかと驚いたが、そう言えば、かつてヨーロッパを旅行した際、ユングフラウヨッホ(標高3,463m)の頂上にも雪が吹き荒れる中をカラスが飛んでいたのを思い出した。カラスの生命力には恐れ入る。

 11時30分発のロープウェイで麓に降りる。駐車場はすでに満車状態。たくさんのバスや自家用車が各地から来ていた。
 昼食は、国道1160号沿いにある「Haru Kitchen」でジビエ料理をいただく。メニューは、「鹿肉のそぼろ丼」。女性が一人でやっている店で、その日はわたしたちのツアー一行で貸し切りだった。

鹿肉の丼 店内には、鹿の角を売っていて、値札を見ると2,500円から6,000円程度だった。鹿の角にも値打ちの差があるのか。出てきたそぼろ丼にのった鹿肉は、スーパーで売っている合い挽きミンチのようで、野を駆けていた野生動物を食べている感じはあまりしなかった。

 再びバスに乗り、美瑛町の「ぜるぶの里」へ。13時15分に到着。広大な敷地には赤いサルビアの花が埋まっていた。遠くに旭岳が見える。パラパラと観光客も訪れていたが、それほど見どころはなく、20分ほどで再びバスに乗り込み十勝岳へとむかった。

 両脇に箱のような家が点在し、白樺の並木が続く道路を走っていくと、やがて十勝岳の噴煙が見えはじめる。標高約2千メートルの頂上付近の火口から、煙が絶え間なく吹き出している。時として大噴火を起こすが、大災害となるのは積雪期で、積もった雪が急速に溶け出すことで発生した泥流が、麓の集落にまで到達する。「大正の大泥流」では1万人以上の住人が犠牲となった。今は秋。雪の影すらない。

噴煙を上げる十勝岳 道路の両脇の畑には、収穫を終えたアスパラガスが伸び放題になり、秋蒔きの小麦が緑色の新芽を出していた。十勝岳は大雪山国立公園の一郭にあるが、ガイドの長谷川さんの説明によると、大雪山国立公園の総面積は約23万平方キロメートルで、この広さは神奈川県の面積に匹敵すると言うから、北海道の広さを改めて思い知る。

 14時すぎに十勝岳の望岳台に到着。標高930メートルの望岳台からは十勝岳連峰が見渡せる。望岳台の近くには十勝岳火山砂防情報センターが建っている。1988年の噴火を機に建設されたセンターでは、振動センサーや監視カメラで24時間十勝岳の活動が監視されており、展示室では十勝岳の噴火の記録や火山砂防事業などを知ることができる。

 案内板の前で写真を撮り、そそくさと十勝岳を後にする。その後、地下水が湧き出ている「白ひげの滝」、神秘的な「青い池」を回る。駐車場にはレンタカーがずらりと並ぶ。「青い池」近くの売店には、青色をしたソフトクリームやラムネ味の「青い池まんじゅう」が売られていた。

青い池 池の青色は、硫黄とアルミニウムが混合した結果とのこと。Macパソコンの壁紙になり、インスタ映えする場所として名が知れている「青い池」も、地元では水たまりに過ぎないと言われているらしい。インスタの威力恐ろし。

 バスに乗ってひたすら富良野の大地を走る。遠くに見える山や、どこまでも続く畑、まっすぐな道路。どこにいっても北海道の広さを感じる。本州とはスケールが違う。その雄大さを引き裂くように、近くの上富良野演習場から大砲の不気味な音が聞こえていた。

 途中、「フラノマルシェ」に立ち寄る。この辺りでとれた農作物や、特産品やみやげ物が並ぶ道の駅のようなところ。ジャムを買ってふたたびバスに乗り、今夜の宿「ホテル十勝サホロリゾート」へ。日は傾き、夕日を受けて山が輝いていた。

夕景 17時半にホテルに到着。ゴルフ場が隣接していて、夏には避暑を兼ねて観光客がゴルフに訪れるらしい。ホテルの駐車場には大型観光バスが8台も停まっていた。ロビーを入ると高校生の団体と出会う。どうやら修学旅行で北海道に来たようだ。

 18時半からの夕食は、刺身や炊き込みご飯などの純和食。なので、ワインではなく大吟醸をいただく。部屋に帰ると、突然、花火が上がるドーンという音がしてびっくりした。修学旅行の高校生たちを歓迎する花火だったそうだ。泊まっていたのは大阪教育大学付属高校の生徒たちと言うから、めざすは東大、末は博士か大臣か。そんなことを思いながら、9時に就寝。

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