5時にカーテンを開けると、西の空が真っ赤に染まっていた。快晴。さわやかな北海道最終日の朝を迎えた。

紅葉 その気分を壊すように、テレビをつけるとどこのチャンネルも、安倍元首相の国葬のニュースばかり。暴漢の銃撃に遭って、遊説中に安倍氏が殺害されたのは7月のこと。岸田内閣は国民の議論もないまま、早々と国葬を決めた。今日は日本武道館で「国葬儀」と銘打った儀式が、国民の税金を使って物々しく開かれることになっている。安倍氏が残した負の財産は何だったのか。おそらく、死後次々と明らかになってくるに違いない。

 6時45分に朝食にレストランを訪れる。まだ人影はまばらで、バイキングから料理を選んで、一つ一つゆっくりと味わう。北海道のジャガイモで作ったコロッケがうまい。牛乳も濃く感じる。

 部屋に戻ってテレビの天気予報を見ると、天気は晴で札幌は最高気温24℃の予想が出ている。この時期としては、かなり暖かい。暑いと言ってもいいのではないか。9時にホテルを出発。遠くの山がきれいに見える。晴れの予報は出ていても、太陽は雲に覆われてぼやけていた。

福原山荘 この時期、わずか約1か月だけ特別に公開される「福原山荘」へとむかう。その途中に、32歳で夭逝した農民画家、神田日勝氏の作品を展示した「神田日勝記念美術館」の前をバスが通る。日勝は、NHK朝ドラ『なつぞら』の「山田天陽」のモデルにもなったことから全国的にも広く知れ渡った。

 今回のツアーでは残念ながら美術館の見学はコースに入っていない。走り去るバスの窓から、美術館の入り口を一瞬拝んだだけで、妻をふくめてツアー参加者、特に女性からは「見たかったー」とブーイングが上がっていた。天陽を演じた、吉沢亮の甘いマスクが浮かぶのか。

 9時40分に福原山荘に到着。道東の十勝・釧路・根室地方を中心に展開する大手食品スーパー『フクハラ』の創業者である、福原治平氏が8.5ヘクタールもの広大な敷地を買い取って、さまざまな木々を植えて庭園に仕上げた。紅葉シーズン限定で特別公開される山荘とあって、旭岳とセットで定番の観光コースとなっている。駐車場には、「旅物語」とこれ見よがしに太い字で書かれた観光バスが2台停まっていた。

福原山荘にて 紅葉の美しさが売り物の庭園だが、ただ、まだ見頃までには早すぎたようで広々とした庭には、紅葉もなく残念な景色だった。ガイドさんは、あと1週間遅ければ紅葉もきれいだったと残念そうに言った。30分ほどで一回りしてバスに乗り込む。

 バスは十勝平野を走り、途中、道の駅「うりまく」に立ち寄りショッピング。と言ってもわずか15分しかなく、ざっと見て回っただけだった。牧場が併設しており、乗馬体験などもできる。200円で90秒間ロデオ体験できる、機械仕掛けの馬が置いてあった。

 どこまで行っても十勝平野。ところどころに巨大な牛舎、広大な牧草地、田園風景が延々とつづく。高速道路を下りて帯広市内に入ると、ほどなくして「とかち大平原交流センター」に到着。隣接する農園で体験農業をしたあと、収穫した農作物で昼食をとるケジュールになっている。

ジャガイモを収穫 ガイドは、庭園で働く岡野さんという元気な女性。笑顔で声を張り上げながら時間をかけてあれこれと説明してくれるが、観光としては面白みに欠けるもので、私としては早く昼食を済ませて次の場所へと向かいたかった。軍手をつけてイモ掘りなどを体験したあと、ようやく昼食にありつく。

 カセットコンロに載せた鉄板で、採れたばかりのジャガイモとともに、マッシュルームやベーコン、枝豆などをアルミホイルで蒸し焼きにしていただく。ジャガイモは、ノーザンルビーという北海道特産のもので、中はその名の通りルビーのように赤色をしている。これに農場自家製のパンとトウモロコシ茶がつく。

 あっけなく食べ終わり、食後若干の休憩をとってバスに乗ったのは13時半で、この農業体験に2時間も費やしたことになる。時間がもったいない。地元の農業を知ってもらいたいという熱意はわかるが、観光の日程としては一工夫したほうがいいのではないか。

六花の森 芹洋子さんの歌のヒットで一時期人気が出て、今は廃駅となっている「幸福駅」の前を過ぎて、14時に「六花の森」に到着する。北海道に旅行した人なら大抵は土産にする、「六花亭」のお菓子を製造している工場がある。あのマルセイバターサンドも、ここで作られている。

 工場とともに10万平方メートルもの庭園が整備されていて、エゾリンドウやトリカブトなどの可愛らしい花が咲いていた。六花亭の包装紙にはこれらの花の絵が描かれていて、一度は見たことがあるのではないか。

 その花を書いたのが山岳画家の坂本直行氏。地元の人からは、親しみを込めて「チョッコウさん」と呼ばれていると、長谷川さんから説明があった。なお「六花」とは、エゾリンドウ、ハマナシ、カタクリ、オオバナノエンレイソウ、エゾノリュウキンカ、シラネアオイの6種の野草のことだそうだ。

六花の森で 約1時間ほどかけて庭園を巡る。庭園内のいくつかの建物には、坂本直行氏の絵が展示されていた。花の絵は意外と少なく、北海道の雄大な山岳風景を描いた油絵がほどんどだった。素朴な画風から、チョッコウさんの山に対する愛情のようなものが伝わってくる。

 庭園から出ると六花亭の工場に併設するカフェテリアや土産物屋があり、空港では手に入らないここだけの限定商品が売られていた。お土産に定番のチョコレートを購入。建物から出たところに六花亭の包装紙でデザインした記念写真エリアがあり、2人並んだところを長谷川さんに撮ってもらった。

 15時半に「六花の森」を後にする。約30分で「真鍋庭園」に到着。日本初のコニファーガーデン(針葉樹の庭園)として知られている。約2万5千坪の日本庭園や西洋庭園には、数千種もの木や花が植えられている。林業で財を成した眞鍋佐市氏の後を継いだ息子の正明氏が昭和6年に真鍋庭園を開園した。

「なつぞら」のセットで 佐吉氏は、大正天皇がこの地を訪れることとなり、休憩所として「真正閣」と名づけた家屋を作って迎えた。ところが、大金をかけてわざわざ建てた「真正閣」には大正天皇は立ち寄ることなく、帰途についたという。個人財産でやったことだから他人事で済ませられるが、似たようなムダ遣いをこの国のお役所もやっているのは笑えない。

 時間があったので、庭園内の売店でソフトクリームを買って食べる。なお、ここにはNHK朝ドラ「なつぞら」のセットがあって、「山田天陽」が描いた絵が飾ってあった。

 17時すぎにバスに乗ると、夕暮れ迫る道をひたすら帯広空港にむけて走る。17時40分にとかち帯広空港に到着。ガイドさんと運転手さんにお礼を言って別れる。空港のレストランで海鮮丼を食べて19時の飛行機で北海道を後にした。