長崎と天草地方におけるキリスト教会群、迫害から逃れた人々の集落、石積みの棚田をはじめとする歴史的景観が、『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』としてユネスコの世界文化遺産として包括的に登録されたのは2018年7月のことだった。
昔、学校の歴史の授業で「隠れキリシタン」という言葉を聞いたことは覚えているが、恥ずかしながら、迫害を受け人たちがどんな暮らしをしていたのか、どんな方法で信仰を守り抜いてきたのかなど、もっとも大切な部分はほとんど知識を持っていなかった。
世界遺産登録の翌年、長崎・五島列島を訪ねる団体ツアーを知り、世界各地の感動的な旅を企画することで定評のある富士国際旅行が主催するというので、3泊4日の旅に夫婦ででかけることにした。9月という気候もいい時期なので、南国のおいしい料理と焼酎を味わいつつ、ゆっくりと旅行を楽しめるものと期待しての参加だった。
しかしながら、もちろん料理や美しい自然は深く思い出に残るものだったが、それよりも、はるか離れた島々にひっそりと息を殺して隠れ住み、信仰を貫いてきた人たちの執念とも言える生き方にこそ、強い感銘を受けて帰ってきた。そこには、脅され、罵られ、暴力にさらされようとも、信念に真っ正直に従って生きた証が、世界遺産として残されていた。
だから、その文化と歴史が世界遺産に登録されたの大いに喜ばしいことなのだが、一方で、いま五島の人たちは、物珍しさでやってくる観光客の増加という、違う形での苦労と困難に直面もしている。そのことを知り、観光客の一人としては複雑な想いで帰ってきた。
とは言え、出会った人たちはみんな私たちをこよなく歓迎し、行く先々での細やかな心遣いは身に沁みてありがたかった。このツアーを企画してくれた富士国際旅行社、五島のふるさとガイドのみなさんに感謝しつつ、旅の思い出をいつまでも記録に残すため、旅行記としてとりまとめてみた。