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8月30日(月)
ブルージュ市内観光

 1週間の幕開けはブルージュから始まった。気温は18度。雨が降りそうなどんよりとした曇り空にうすら寒ささえ感じる。ホテルから見る旧市街地もぼんやりとくすんでいた。ロビーに降りていくと、ベルギー各地のガイドをお願いする松本さんが待っていた。ベルギーの男性と結婚して、ブリュッセルに住んでいるそうだ。初対面の印象はややたよりなさそうにも見えたが、この人のすばらしいガイドに、今回のツアーのわたしとしての値打ちが数段跳ね上がることになる。

●マルクト広場の鐘楼がブルージュの「道案内人」

ブルージュを歩く

 9時にホテルを出て、徒歩でホテルまでの道順を松本さんに教えてもらいながら、中心地のマルクト広場にむかう。こうしておけば、何かあってみんなとはぐれてしまった時でも、ひとりでホテルにたどり着くことができるからだ。

 途中、映画『尼僧物語』のロケーションで使ったという白い館の前を通る。オードリー・ヘップバーン主演で、実在するシスターの半生を描いたアメリカ映画だ。旅行に出る前に古いビデオをわざわざ買って、一度だけ見てきた。その後、街角の銅像などをみながら、30分ほどで広場に到着する。

 広場にあるひときわ高い八角形の鐘楼は、ブルージュのどこにいても見えるそうで、松本さんは、道に迷ったらこれを目印にマルクト広場にくれば大丈夫だと教える。どうもこの人は、旅行者というものは、とくに日本人は、道に迷うものだと決めつけているふしがある。

鐘楼

 松本さんは、マルクト広場とホテルの位置関係を覚えておけば、道に迷うことはありませんよと鼻高々でわたしたち一行に説明するのだった。総勢20人がきょろきょろしながら、ぞろぞろ歩く姿は、まさに日本人の団体旅行である。

 マルクト広場の鐘楼には、27トンの「組鐘」が最上部まで持ち上げられ、奏でる音色には意味があり、それにより、当時、文盲だった人たちへ各種の連絡を伝えたという。5ユーロを払えば最上部まで登らせてくれるが、しかし、366段の階段を徒歩で行かなければならない。ガイドブックには、上から見るブルージュの街の風景が最高だと書いてあったが、とてもその元気はなく、何の未練もなくパスする。

 マルクト広場を囲むようにして、レストランやみやげ物屋などがずらっとならんでいた。観光用の馬車の乗り場があって、5頭ほどの馬がのんびりと休憩していた。まだ時間が早いのか、あたりを歩く人の数は少なかった。

マルクト広場でガイドする松本さん(ピンクの人) 広場の真ん中あたりで松本さんに一通りブルージュの歴史を教えてもらい、次のブルク広場へと移動する。聖血礼拝堂をはじめ、ロマネスク、ゴシック、ルネッサンスなど中世の各時代に建てられた、さまざまな様式の建物がずらりと並んでいるながめはみごとだ。最も古いものは、日本では平安時代にあたり、まさに建造物の博物館である。

 その後、聖母教会を見学する。ひときわ高い塔は122メートルあって、14世紀当時のヨーロッパのなかで最も高いの建築物だった。礼拝堂には、ミケランジェロ作のマリア像が展示されていた。マリア像は、ブルージュの街の人たちが金貨100枚を出しあって、商人から買ったと松本さんに教えられた。現在でも貴重なものらしく、マリア像は防弾ガラスで守られていた。

●運河巡りのガイドからチップをねだられる

運河巡りの船上

 聖母教会を出た頃から空模様が怪しくなりはじめたこともあり、スケジュールを変更して運河めぐりを先に楽しむことになった。20人ほどが乗りこむと満席となる小さなボートで運河をすすみ、ブルージュ市内の各名所を訪ねていく。

 見せ場にくると、船専属の男性ガイドがオランダ語とフランス語で説明する。その次にテープから日本語が流れてきた。降りるときには、テープの声が、「ガイドのためにお心付けを」と日本語でチップを求めてきた。チップは全額がガイドの収入となる。彼らの賃金は低いということを添乗員の福永さんから聞いていたので、気前よく50セントをガイドに手渡した。

 船をおりて、一行はチョコレート工場にはいる。せまい工場にひとりで働く年配のおじさんが、チョコレートの作り方をじっくりと伝授する。ベルギーのチョコレートがおいしいのは、ヨーロッパの基準よりもさらに厳しい基準でチョコレートを作っているからだ。

チョコレート工場の職人

 カカオバターの量も多く、その証拠に気温が高くなるとすぐに解けてくる。とてもとても甘くておいしい。というようなことを、チョコレート作りを実演しながら、おじさんはとても熱心に語るのだった。

 ここの工場のチョコレートは、ガイドの松本さんも日本へのおみやげに持って帰るらしい。ひとかけらだけ味見させてもらったが、たしかに甘くておいしかった。そのぶん、値段も結構なものだった。おみやげ用に最も小さな箱入りチョコを10個買ったのだが、それだけで1万円以上もの大金を使ってしまった。

 その後、街のお菓子屋をのぞくと、同じくらいの大きさのものが半額以下で置いてあって、それを見た妻は、職場や友人に配るならこれで十分だった、あんな高い店で買わなければよかった、1万円も出してもったいないことをしたなどとしきりに悔やんでいた。

 ブルージュの街巡りは、チョコレート工場の前でひとまず解散となった。希望する人には、ガイドの松本さんが個人的にいろいろ案内するとのことだったが、わたしたちは単独行動することにした。

鐘楼をバックに

 中世の古い町並みをぶらぶらと歩きみながら、みやげ物屋をあちこちのぞいてまわるのが楽しかった。各国から来た多くの観光客で通りはにぎわっていた。レース編みはブルージュの名産品だが、最近は、安価な中国製のものも店先に出ていると聞く。やはり「本物」は丁寧に作られていて、どれも値がはっておいそれと手が出なかったが、いつもタッパーいっぱいのお手製の「くぎ煮」をいただく山本さんに、フクロウを絵柄にしたレース編みを買った。

 神戸の元町で「やま」という小さな居酒屋を営む山本さんは、お店に飾るために縁起のいい梟の置物を集めていた。妻は、ちょうどいいおみやげを見つけることができたとよろこんだ。その他、女の子のかわいらしい人形をみつけて、わが家へのみやげにした。

●名物の馬車に乗って優雅にブルージュ市内を観光

ベギン会修道院 お腹が空いたので、にぎやかな通りのレストランに恐る恐る入った。定番のマルガリータのピザと、ミートソースのスパゲティを注文し、フルーティーな味がする地元の「ブルージュビール」を飲みながらいただく。ピザの上には、日本のピザ屋のようにごちゃごちゃとあれやこれやがのってなく、いたってシンプルなものだったが、トマトソースがぱりっとした生地に合っていておいしかった。

 昼食後もあちこちの店を見て歩いた。レース、チョコレート、人形などなど、ブルージュの名産品をならべる店が街中にあふれていた。ガイドブックに出ていたお目当ての『イルマばあちゃん』のいるレース店をさがして訪ねる。すごく太ったイルマばあちゃんは、ガイドブックの写真通りに店先でレース編みの実演をしていた。生きている広告塔のようなものだ。

イルマばあちゃん

 妻が1ユーロをイルマばあちゃんに渡して、写真をとってもいいかとたずね、彼女の了解を得てカメラをむける。店に入ってみたが、やはりどの商品も手作りの高価なものばかりで、とても手が出そうになかった。もちろん、すべてをイルマばあちゃんが編んでいるわけではないだろうが、彼女には申し訳なかったが、一通り見るだけで早々に引き上げた。

 ふたたびマルクト広場までもどってきて、夕食のためにガイドブックで目をつけていた店の場所を確認したあと、馬車に乗ることにした。こんどは一転して多くの観光客が長い行列をつくっていて、30分ほど待って順番が回ってきた。馬車に乗り込むと、手綱をあやつる男性は、英語でゆっくりと一生懸命、古い建物や教会などの歴史や由来を教えてくれた。約30分の名所見物ののち、30ユーロを渡して礼をのべて馬車を降りた。

●飛び入りで入ったレストランの料理に大満足

馬車で観光

 マルクト広場のあたりを歩いて時間をつぶし、6時近くになって、ガイドブックで紹介されていたお目当てのレストランに入った。しかし、店員たちはみな無愛想な態度で、そのうえ、メニューからはどんな料理なのかさっぱりわからず、無愛想な店員に訊く気もなれず、結局、椅子に座っただけで外に出た。

 もう一つのお目当てのレストランを訪ねてみたが、7時からのオープンらしく、待つのもめんどうで、結局、その地下にあるレストランに飛び込んだ。メニューから魚料理を選んでオーダーしたが、出てきたのは白身魚をバターで焼き、キノコのクリームソースをかけたもので、とてもおいしかった。

 付け合わせには、ほうれん草とマッシュポテトを混ぜ合わせたものが食べきれないほど付いていた。オランダでもそうだったが、料理には、フライドポテトやマッシュポテトがいつもたくさんついていたが、こちらではポテトが主食にあたるらしい。

ブルージュの街角

 ビールは、1杯目が昼間飲んだブルージュビールで、2杯目はガイドブックを指さしながら、「シメイ (Chimay) 」を頼んでみたが、地元ベルギー産のビールを置いていないらしく、しかたなく別のものを注文する。

 店内は、はじめは、わたしたちだけだったが、時間が経つにつれ、子ども連れの客も入ってきて、20ほどの席は、ほぼ満席となった。最後にでてきたデザートのチョコ入りアイスクリームが格別においしくて、妻がたのんだプリンもびっくりするほどおいしかったそうで、とびいりではいったみせだったが、ひとしきり満足して店を出た。

「尼僧物語」のロケ地

 食事の途中、地下の入口から外を見ると、ザーザーと音がするほどにわか雨が降ってきて心配したが、帰る頃にはすっかりやんでいて、雲の間からは青空が見えていた。人影のないオープンカフェの椅子とテーブルは、雨でびっしょりと濡れていた。ホテルまでの道すがら、『尼僧物語』に登場する建物の前で記念撮影した。映画の最初で、オードリー・ヘップバーンが家を出て行くシーンでこの建物が使われた。いまは、病院になっている。

 9時前にホテルに着いた。今日は、本当によく歩いた。そして、ブルージュの街を楽しむことができ、人々の優しさにもふれることができて大満足だった。残念だったのは、ほとんどの美術館が月曜日を休館日にしていて、数々の名画を見ることができなかったことだが、それを差し引いても、ブルージュはいつまでも想い出に残る街となるだろう。

8月31日 ゲント~ブリュッセル →

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オランダ・ベルギー旅行記

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