2020年に全世界をおそった新型コロナウイルスは、わが国でもたくさんの感染者を出した。中国の武漢を出発点に、あっという間に全世界にひろがった新しい感染症は、ワクチンも特効薬もなく国際社会を恐怖のどん底に落としこんだ。そしてヨーロッパではイタリアが最初にウイルスに狙われた。

 そのイタリアを、わたしたち夫婦は20年以上も前に旅行した。思いおこせば、97年に初めての海外旅行でロマンチック街道を楽しみ、さて次はどこに行こうかと二人であれこれ考え、まず、エジプトが候補にあがったのだった。しかし、日本人10人をふくむ62名もの人たちが卑屈なテロ攻撃の犠牲になるという、王家の谷で起きた「ルクソール事件」の悪夢を思うと、あっさりと候補からはずれた。ならば安全なアジアといったんは考えたが、近場ならば歳をとってからいけばいいかと、これもまとまらなかった。

 と言うわけで、消去法のようにして2度目の海外渡航も、目的地はヨーロッパと定め、あれこれ考えて、イタリアが最後に残ったのだった。イタリアと言えば、すぐにブランドショッピングを思い浮かべるが、わたしたちの興味はもっぱら歴史や文化、とくに絵画などの芸術であり、イタリアはルネッサンスに代表される芸術にあふれている国だ。

 芸術にいそしむなどと大げさなことを言っても、たった数日間の旅では、イタリアの魅力のほんの一部にしか触れることはできないのはわかっていたが、とにかく、目と耳で、そして肌で確かめてみたいと、この国にねらいを定めた。

 実際に訪ねてみて、ローマをはじめ各地では何千年にもわたる歴史がそのまま残されていたり、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロをはじめ、ルネッサンス時代のすぐれた絵画や彫刻を現実に目にすると、そのすばらしさに圧倒され、ため息が出るばかりだった。そんなイタリアの休日をあれこれと思い出しつつ、旅行記として記してみた。

 イタリアでコロナの犠牲になった方々のご冥福を、心からお祈りする。

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